相続税の申告時に必ずチェックするもののひとつに、預金通帳があります。
預金通帳の確認がもっとも重要な手続きといっても過言ではありません。

預金調査の重要性
相続税の申告においては、亡くなられた日(相続開始日)時点の被相続人の財産が申告対象になります。
そのため、預金残高については銀行に残高証明書を発行してもらい、その金額を財産として計上することになります。
残高証明書は申告の根拠資料として添付する重要な書類ですが、通常は預金通帳は申告の根拠資料としては添付しません。
それでも、通帳から得られる情報は残高証明書よりも遥かに多く、見逃すと非常に危険な情報も含まれています。
預金調査で見えてくるもの
預金通帳を注意深く見ていると、単純な数字とカタカナ・記号の羅列が意味を持って語りかけてきます。(あやしげな事を言っているのでは無いですよ、念のため)
生活の様子や趣味・性格など
几帳面な方は空いた欄にメモ書きを残しておられ、さらに有益な情報が得られます。
入出金の状況やメモ書きから、その方の生活の様子や趣味嗜好、なんとなくの性格までがわかります。
年金の他に、配当金や保険金が入っていたり、ゴルフが好きならば、ゴルフ場への年会費の支払があったり、競馬が好きなら即PAT口座を持っておられたりもします。
こういった生活の様子や趣味などから、保険金やゴルフ会員権などの財産の計上漏れや、あるいは本来は相続財産から差し引けるはずの債務などの漏れを防ぐことが出来ます。
直前引出し分の手元現金
これはほとんどの案件で見るものなのですが、亡くなられる1月か2月前に50万円ずつを何回も引出しているものになります。
で、この50万円のまとまった引出しというのは、被相続人が亡くなられた日時点では現金として手元に残っているケースが多いのです。
なぜかというと、亡くなられた後に掛かるお金のことを心配して、銀行口座が凍結されて引出せなくなってしまう前に手元に置いておくケースがほとんどだからです。
そのこと自体は、なんら責められるべき事柄ではなく、残された方の不安な心情を考えれば当然のことかと思います。
ちなみに50万円の引出しというのはATMで引出せる上限額だからになります。
ただし、これら引出されたお金は、亡くなられた日までに使用した分を除いて相続財産の手元現金として計上しなければなりません。
要するに、当初の申告時にしっかりと確認をして計上しておけば、何ら問題になることではありません。
相続開始前3年内の贈与
相続開始前3年内に相続人へ贈与した財産(通常の暦年贈与分)については、相続税の申告時にその分も足し戻して計上をしなければなりません。
これは贈与税の基礎控除110万円を下回っていたとしても足し戻す必要がありますので、贈与税の申告をしていないから安心というわけではございません。
そのため、3年内の預金の動きから相続人へ贈与された形跡のあるものについては財産の計上漏れとならないように、ひとつひとつ事実関係を確認していくことが重要になります。
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名義預金
預金関係の中でも、税務調査時にもっとも論点になりやすいのが、この名義預金といわれるものになります。
夫が亡くなった1次相続のケースがもっとも起こりえるパターンかと思われます。
すなわち、専業主婦の奥さま名義の預金口座に多額のお金が残されており、その実質的なお金の出所は夫というケースにおいては、それは奥さまのものではなくて、夫の相続財産でしょ、というのが税金の世界の考え方なのです。
「いえ、このお金は主人と2人で貯めたものです」とか、「貰ったものです」と抗弁してみても、贈与契約書などの客観的証拠が無い限りは、全てを否定することは難しいでしょう。
そのため、当初申告時にも、特に時間を掛けて相続人に説明してから、その有無を慎重に判断していきます。
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その他の財産
高額出金については、それが財産的価値のあるものに代わっていることがあります。その場合は、当然ですが、相続財産として漏れなく計上する必要があります。
実際に私が見たものでは、リフォーム代(建物・建物附属設備として計上)や、車、貴金属、親族への貸付債権、有料老人ホームの入居一時金など様々なものがありました。
こういったものは、相続人へヒアリングしても忘れていたり、そもそも知らなかったりするケースもあって見つからないものが多いのですが、預金通帳の履歴を見ることで、発見することが可能です。
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税務調査での指摘事項はほとんどが預金関係
以前、記事にしました相続税の調査の状況でも明らかだったように、調査による相続財産の計上漏れは、圧倒的に現金・預貯金が多いです。
調査立会いをしていても、税務署はかならず家に残っている通帳を確認して、アレコレと聞いてきます。はっきり言って、一番楽に効率良く財産計上漏れの痕跡が見つかるからです。
土地の評価や非上場株式の評価のような、ある程度見解の相違で判断が分かれるような論点では、いわいるグレーゾーンといいますか、明文の規定の無いことも実務上多いものです。
ですが、現金・預貯金となると、評価方法もそのままですし、「ある」か「無い」かだけですので、認定して課税するほうも非常に楽なのです。
そのため、本当に時間を掛けて確認をしてきます。
特に、被相続人の預金履歴と同じくらい時間を掛けて、相続人の預金履歴も確認してきます。
相手はプロですから、当初申告時に適切に危ないところを潰しておかないと、必ず厳しい突っ込みがきて、財産計上漏れというふうに認定されてしまいます。
その結果、相続税本税はしかたないにしても、加算税と延滞税が追加出費として掛かってしまいます。
また何よりも、決して気分の良いものではありません。
(ちなみに私は前職の時から、自分で担当した申告の税務調査は来たことが無いです。税務署からの確認がきても、書面添付の盾がありますので意見聴取のみで終了でした。)
税務調査に立会う度に、ひどく消耗される方々を見てきて、そういったことが本当に嫌になり、出来るだけ私のお客様には不愉快な思いはさせたくないなと強く思っております。
だからこそ! 私もお客様のためを思って、税務署と同じようにゴリゴリと通帳を確認させていただいております。
何卒ご了解くださいませ(笑)