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【遺産相続冒険譚】ティティの奇妙な冒険 ~伝家の宝刀通達6項~ 第9話
「そう…ですか。はい、分かりました。」
ティティは電話を切った。
スズッキ・オットーが旅を終えた…。
彼らしい清々しい最期だったらしい。
彼のリュックははち切れんばかりに膨れていた。
よくここまで一代で感謝と信用を集めたものだ。
その成果こそがあのリュック。
「これもオレの仕事のひとつなんだもんな。
まったく因果な商売だよ。」
ティティは旅を終えた者のゼーキンを正確に計算する。
そして残された旅人たちを守る。
それが仕事だ。
やりがいも感じている。
ただ、それでも。。。
「オットーさん。
オレはやっぱりツライよ。
出会ったころはあんなに元気だったのにな。
そのオーラとか、ちょっと恐いところも含めて憧れていたんだぜ。
人間いつどこで旅を終えるか。
こればっかりは本当に分からないものだね。」
さて、と。
感傷にばかり浸ってはいられない。
ラヴ・レター(公正証書遺言)は、あるな。
スズッキ家のひとは全員オレも会っているからまず揉めることも無いだろう。
問題はゼーキンを払うお金だ。
手持ちのお金でギリギリ払うことは出来る計算だったな。
とりあえずざっくり概要を伝えておいて、ムダなお金を使わないように言っておかなくちゃな。
ティティが強く提案していた暦年贈与(レキネンゾーヨ)の効果も大きい。
相続人でない3列目のパーティや子どもの奥さんたちにも贈与していたので、かなりのリュックの中身を生きている間に移すことができた。
ゼーリシ・ティティの報酬も、生前に一部を貰っていた。
すでにリュックから減っているためゼーキンも安くなるし、ゼーリシ報酬がその分減るので残された旅人にとってはメリットが大きい。
ところがティティはまだ動かない。
時期ではないからだ。
動き出すのは四十九日を過ぎてから。
それまではダメだ。
四十九日までは、旅路を終えた者の魂がまだこの世界にある。
魂があるうちに、リュックの中身のことをアレコレ言うのは野暮ってものだ。
リュックの中身を計算してゼーキンを支払う期限は、亡くなってから10か月。
四十九日を過ぎてからだと約8か月。
はっきり言ってタイトな日程だ。
旅路を終えた後はいろんな手続きや届出なども多く、あっという間に時間は過ぎていってしまうのだ。
悲しみに暮れる時間もすくない。
これからゼムッショとの闘いも激しいものになるだろう。
なにせこれだけのリュックの中身だ。
いくら奥さんがまだ健在とはいえ、取れるゼーキンの金額も多いからな。
ティティはひとり。
だが今回はチームを組んでこの仕事を乗り切るほうが良い。
ティティには尊敬する大先輩がいる。
元ゼムッショの資産税トップで今は同じゼーリシとして活躍している人だ。
この人と一緒にやろう。
アラガキユイ似のあの若い女ゼーリシだとちょっと頼りなさすぎる。
「オットーさん、見守っててくれな。
あんたの魂とリュックの中身はすべて次の世代にうまく引き継がせてやるからな。」
ティティは空を見上げた。
泣くのはこれで最後だから。
「ホントにありがとうございました。
長い間、くそお世話になりました!!!」
ドドン!
第一部 完
用語解説
・ティティ …ゼーリシ・カイケーシ。2人の子どもがいる。リュックは軽い。
・スズッキ家
オットー …88歳。男性。1列目。リュックははち切れんばかりに重い。
オッカー …84歳。女性。1列目。軽がるリュック。趣味はおしゃべりと1人カラオケとパチンコ。
夫婦の間に3人の子どもが居る。
・ゼムッショ …ゼーキン(税金)を旅を終えた者のリュックから取るのが仕事。根は良い。
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【遺産相続冒険譚】ティティの奇妙な冒険 ~ダイヤモンドは相続財産~ 第1話
【遺産相続冒険譚】ティティの奇妙な冒険 ~ダイヤモンドは相続財産~ 第2話
【遺産相続冒険譚】ティティの奇妙な冒険 ~他人のリュックに勝手にものを入れるのは良くない~ 第3話
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【遺産相続冒険譚】ティティの奇妙な冒険 ~餅は餅屋に~ 第5話
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