相続税法上、土地の評価は原則として時価ということになってます。
ただ、ひとくちに時価と言っても、あいまいで主観的な見方も多く、その金額は評価する人によって大きくブレる可能性があります。納税者と税務署とで主張する金額に大きな差が出てきますと、その意見のすり合わせにお互いの時間と労力が必要になり、結果、誰も得しません。
そのため、簡便的かつ客観的な評価方法として、財産評価基本通達で、路線価方式(と倍率方式)という画一的なものが定められました。この評価に従えば客観的な金額が算定されるため、非常に便利なものではあります。
ただ、そうはいっても土地の形状など厳密にひとつとして同じものはなく、特殊事情を反映するために様々な要因で評価額の増減が行われます。
で、前置きが長くなりましたが、今回はそのなかの一つとして、日当たりが悪いお家なら、その分評価額も相続税も下がります、というお話です。
(※画像はイメージです)
利用価値が著しく低下している宅地の評価
次のようにその利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて、著しく低下していると認められるものの価額は、その宅地について利用価値が低下していないものとして評価した場合の価額から、利用価値が低下していると認められる部分の面積に対応する価額に10%を乗じて計算した金額を控除した価額によって評価することができます。
- 道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
- 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
- 震動の甚だしい宅地
- 1から3までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの
また、宅地比準方式によって評価する農地又は山林について、その農地又は山林を宅地に転用する場合において、造成費用を投下してもなお宅地としての利用価値が付近にある他の宅地の利用状況からみて著しく低下していると認められる部分を有するものについても同様です。
ただし、路線価又は固定資産税評価額又は倍率が、利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合にはしんしゃくしません。
(国税庁HP No.4617 利用価値が著しく低下している宅地の評価 より)
この規定は私たちのように相続税を専門にしている税理士にとって、いかにうまく適用できるかの腕のみせどころであり、非常に重要なものになります。
今回は赤い太字部分に着目してみてください。
日当たりの悪さを相続税評価額の減額につなげる
日照阻害のところに()書きで建築基準法なんたら・・・と書いてますが、これは、冬至の日の午前8時から午後4時までの日影時間を指します。つまり、1年で最も日が短い時の日当たりで、どれだけ日陰があるかで判断するのです。
でも、そんなことどうやって把握するのでしょうか。
日影図(にちえいず)があれば必ず入手
亡くなられた方の存命中に自宅の南側にマンションが建ちました。大阪市内で駅近の一軒屋でしたので、ある程度はしかたの無いことだったのでしょう。
そのマンションは自宅南側のお庭に隣接して建てられており、その建築説明のために日影図をそのお家に渡したそうです。
日影図というのは、建物が造る影を時刻ごとに平面図に表したもので、冬至の日が基準になります。
今回は、その日影図がちゃんと残されており、相続人から入手できたため、そこから宅地のうち日当たりない面積を詳細に算出することができました。
路線価が日当たりの悪さを考慮しているか
日影図によって日陰の状況が分かっても、単純にそれだけでは評価の減額はできません。
現地調査をおこない、路線価図に当該日当たりの影響が路線価には反映されていないことを確認する必要があるのです。路線価にその影響が織り込み済であれば、そこからさらに減額はできないためです。
結果として、その周囲の状況と路線価で判断して、その路線価には当該日当たりの悪さの要因は含まれていないことが分かりました。
そのため、評価額を引き下げることができました。
不動産の評価は詳細に税理士による添付書面に書き込む
不動産の評価にはプロとしての腕前がとても表れるところですが、それをさらに補完するものとして、「税理士による添付書面」があります。
弊社では、その判断過程から評価方法・結果にいたるまでこの書類に書き込んで明らかにすることで、税務署へ対しても疑念の余地を残させないようにしております。
参考
【税務調査の盾】相続税申告で書面添付を必ず行っている理由をあらためて説明します。
1番はお客様に喜んでもらうため
その家の庭は私が訪問した時も綺麗に保たれており、ガーデニングは生前のお母様の楽しみでもあったとのことでした。
ただ、南側にマンションが建築されてからは、日当たりが悪くよどんだ空気がただよい、庭のお手入れの楽しみも減ってしまったとのことでした。
そのことを生前はよくおっしゃっていたそうです。
それが相続人の心残りでもあったため、なんとか評価額に反映する形でその気持ちに応えようと思い、古い日影図まで引っ張り出してきてもらったのでした。
それによって、お客様からとても感謝されたことは忘れられません。
梅田中央税理士事務所では、お客様の気持ちを最大限に汲んで申告することを心がけております。
土地の減額には実に様々な手法があります。
不動産の相続でお悩みのかたは、ぜひ、大阪の梅田中央税理士事務所にご相談ください。