公正証書遺言の作成は円滑な相続を考える上でとても有効であり、生前対策として私も強くお薦めするものになります。
公正証書遺言には、作成までに公証人とのやり取り等のハードルがある分、その法的有効性は担保されたものになるため、確実にその効力を発揮してほしい相談者の方にとっては有難いものでしょう。
作成の流れが形式的にきっちりとこなされるため、きっちりとしたイメージをもつ金融機関が主導で行い易い業務にもなろうかと思います。
また、近年の銀行を取り巻く悪環境から、早急に収益の柱を増やすことが急務とされていることは想像にかたくありません。
そのため各金融機関はこぞって遺言信託業務に力を入れており、特に1億円以上の資産のある方に対しては、軒並み営業を掛けている状況です。
ですが、私は近いうちにこの遺言信託に関する問題が顕在化するのでは無いかと思っています。
実際に携わった事例においても、相続人からの不満の声はかなりありました。
どういうことかご説明しましょう。
高い、高すぎる・・・。
1つ目は、とにかく執行報酬が作業の割に高く、コスパが悪い点にあります。
良くまとまった目録を作ることには長けているのですが、その中身の作業は不完全で中途半端であることが多く、対応も事務的である事が多いため、相続人からの不満が噴出しているものになります。
税務・法務に関しての個別的な質問や不明点は全て、顧問税理士・弁護士等にお問い合わせください、というお決まりのフレーズで対応を避けるため、その受け皿となる我々に不満の声が届く形になります。
さらに、遺言信託執行報酬と税理士報酬は完全に別ですが、そういったことも適切に相続人には伝えられていないことが殆どです。
税理士報酬は相続財産の1%程度で、概ねその2倍から4倍程度の遺言執行報酬が掛かりますが、
作業量的は全く逆のイメージです。
相続人に内緒ですすめて問題化
2つ目は、残された相続人がその公正証書遺言のことをよく知らないことです。
別に内容まで逐一、相続人のかたに説明する義務はないですし、そこまではしなくてもよいのですが、○○銀行で遺言を作ってもらってるよ、というひと言くらいは、残されるほうが良いでしょう。
被相続人は、良かれと思って(金融機関がそういう風に説明してきますので)遺言信託をしているのですが、
実際に高い遺言執行報酬を支払わされるのは、残された相続人になるのです。
生前にある程度、執行報酬を支払っておくことも出来る様ですが、遺言執行報酬も相続財産に対しての料率で計算されるため、亡くなるまでは金額が確定しないのです。
ノルマの影響で税理士には作業ムチャぶり
3つ目は、これは税理士としての立場の意見なのですが、金融機関サイドの都合に相続税の税務申告スケジュールが巻き込まれてしまうことです。
これは、彼ら行員としての予算の都合のために起こる問題になります。
「○○月までに申告して下さい。」と税理士はプレッシャーをかけられ、急ピッチで相続税の申告作業を行うため、少なからず税務リスクが高まります。当然申告の責任は税理士が負う事になりますので、そこはかなりシビアな問題になります。
もちろん与えられた時間内に全力を尽くしますが、相続税の申告においては相続人との円滑な関係性を築くことが何より重要で、その協力体制がしっかり得られていないと、思わぬ所で財産に漏れが生じるなどのリスクが高まってしまうのです。
上記のようなことも踏まえても全てを金融機関に委ねられるのであれば、確かに面倒な作業は金融機関が代行してくれますので、楽に感じられる方もいらっしゃるでしょう。そこにメリットがあるのは事実です。
本当に銀行主導でないとダメなのか、冷静に検討を
公正証書遺言を作成される事は、相続問題を考える上でとても良い事だと思います。
ですが、金融機関主導で遺言信託をした結果、望まない形で多くの負担を相続人に強いるのであれば、それは本末転倒かと思います。
遺言の執行人には、相続人でも弁護士でも税理士でも対応可能です。
今一度、冷静にご家族と検討してください。
梅田中央税理士事務所では、税理士・弁護士・司法書士がタッグを組んで、
相続に関する問題解決に全力で取り組んでいきます。